王位継承に揺れる惑星エンリルのアッカド王朝。皇太后はジウド王子を次期星王に仕立て、もう一人の継承者アダム王子の暗殺を企てる。継承者争いを避け、惑星「青」の調査へと向かうアダム王子。だが調査団内には皇太后の密命を受けた殺し屋と、王族を忌み嫌う指揮官サルゴンがいた。しかしサルゴンには王位継承に関わる深い秘密があった……。
青と呼ばれる惑星、太古の地球を舞台にシュメール神話を絡め地球文明の創生を描く!
(文庫版あらすじより)
はじめに肝心なネタばらしをしてしまうと、このお話は「地球文明(メソポタミア文明)を作り上げたのは実は宇宙から殖民惑星を探すためにやって来た異星人たちの一部で、彼らの視点から文明黎明期の三つの時代について語られる物語」であります。
物語の中で、「惑星エンリル」で繰り広げられている王朝内の争い・陰謀劇と、その後「青」において作り上げられた(作中では陰謀劇に巻き込まれ、結果的に「青」に逃れることとなった調査団のアダム王子と、同行していた女性博士エバがシュメール文明の始祖ということになっています……旧約聖書になぞらえてますね)メソポタミア文明内での権力闘争の対比。これらの構造を見比べてみるとなかなか面白いです。
アダムとエバが「青」に降り立つこととなるまでを描く第一部。調査団から帰還したサルゴン(実はアッカド王妃の私生児であり、母に自分の存在を認めさせるためにアダム暗殺の刺客のひとりとなっていた)と、その補佐官ナハリオのその後の運命が中心となる第二部。そして時代は下り、惑星エンリルにとって危険視される存在となった地球文明の調査と監視のために「青」へ降り立った士官イルガルとその補佐官エアを中心に「ノアの洪水伝説」と絡めて物語られる第三部。
三部をあらためて通して読んでみると、それぞれを個別に追っていた時に思ったものとはまた違った物語の見方をすることができます。
もう一点、読んでいて注目すべき要素だと思ったものがあります。それは全編を通して物語の重要な位置を占める「補佐官」の存在。
惑星エンリルの将校に絶対の忠誠を誓い、あらゆる面でサポートするのが補佐官です。彼らは幼い頃から徹底した教育を受け、生殖能力を停止させ感情を排除し、人間としてのすべての欲望を殺し、いついかなる時でも将校にとって最も有益な、合理的な行動が取れるように「造られた」「機械人間」です。
大量殺戮すら全く表情を動かすことなく淡々とやってのける彼らは、しかし全くの「機械」ではありません。彼らは感情がない存在であると自他共に言われているけれど、将校や周囲の人間の感情的で非常に人間的な思いに対してまったく何も答えを返さないわけではありませんでした。
自分を突き放したサルゴンの態度に(それは補佐官を助けるために彼はわざと取った行動であったのですが)、「大佐にみかぎられた……」と乏しい表情の中で涙を流したナハリオ。最後の別れの際、シュメールの王の息子ドゥムジに対して「いい王におなりなさい」と言い、わずかに微笑みのような顔を見せてエンリルへと帰っていったエア……彼らの表情が、心に焼き付いて離れません。
人間的なもの、感情とは一体何なのだろう……とこの作品を読んで深く考えさせられました。
<秋里和国「青のメソポタミア」白泉社文庫全一巻>